「アメリカン・ストーリーズ」(カルヴィン・トリリン、田村義進訳) 早川書房

 初版が93年。そこから6年後、当時の自分は暇が有り余っていて、とにかく何でもいいから面白そうな翻訳モノが大量に読みたかった。図書館で手当たりしだいに良さげな本を借りまくってた頃、何の予備知識もなく手に取った。



 12本のノンフィクションが収められている。ハーゲンダッツとアイスクリーム市場を争うベン&ジェリー社の隆盛、ちょっと風変わりな二人組みのショーマンが成り上がるまで、ある曲をめぐる印税にかかわる訴訟、農地拡張ブームの中で死に至った一人の農夫、等々。

 抑えた筆致が心地よい。ひねったところは欠片もない。書き手のスタンスは、常に一定で変化しない。取材対象者のコメントと周辺取材の結果を淡々と積み重ねていく。当時はまだ、不特定多数に読まれることをを念頭にして文章を思いのままに書き散らす、ネットというフィールドを身近にもっていなかった。その分、今よりよほど、書きあげる文章の完成度にはこだわっていたように思う。その際、何度も参考にしたことを思い出す。
 それぞれの短編に、明確なおしまいは設けられていない。けれども、それは必要ないから。それぞれの短編は、書き上げられた後も、登場する人々の話は現実に進行しているから。その途中、ある一時期を切り取ったちゅうぶらりんの短編が、こんなにも面白い。



 しかし、暇の有り余った人間には当然のようにカネがない。読みたくなったら、図書館で借りて、を何度か繰り返し、そこからまた6年後。昨日、神保町の古本屋で偶然見かけた800円の古本を購入してきた。


 ところが、悔しいことに、マーケットプレイスのほうがずっと、安かった。送料、手数料入れても、まだ安い。



 小宮山書店め!


アメリカン・ストーリーズ (リヴァーサイド・プレス)

アメリカン・ストーリーズ (リヴァーサイド・プレス)