38日目。オルキルオト。双葉町。




オルキルオトのあるユーラヨキ自治体は、フィンランド西部に広がるボスニア湾に面した海岸部にある。首都ヘルシンキから北西に約240kmの距離にあり、面積は約340km2、人口は約6,000人の自治体で、オルキルオトは、ユーラヨキ市街から約10km西に位置する面積約12km2の島である。

福島第一原発が建設された双葉町は、人口6,884人、東京からの距離は約220Km。フィンランドの首都ヘルシンキからほぼ同じ距離にある同じくらいの人口の街に属するのが、オルキルオトになる。





100,000年後の安全」予告


本作品はフィンランドのオルキルオトに建設中の、原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場“オンカロ(隠された場所)”と呼ばれる施設に、世界で初めてカメラが潜入したドキュメンタリー作品で、安全になるまで10万年を要するという高レベル放射性廃棄物を、果たして10万年間も安全に人類が管理できるのかという問題を、フィンランドの最終処分場の当事者たちに問うています。
(中略)
毎日、世界中のいたるところで原子力発電所から出される大量の高レベル放射性廃棄物が暫定的な集積所に蓄えられている。その集積所は自然災害、人災、および社会的変化の影響を受けやすいため、地層処分という方法が発案されました。フィンランドのオルキルオトでは世界初の高レベル放射性廃棄物の永久地層処分場の建設が決定し、固い岩を削って作られる地下都市のようなその巨大システムは、10 万年間保持されるように設計されるという。廃棄物が一定量に達すると施設は封鎖され、二度と開けられることはないのです。しかし、誰がそれを保証できるでしょうか。10 万年後、そこに暮らす人々に、危険性を確実に警告できる方法はあるでしょうか。彼らはそれを私たちの時代の遺跡や墓、宝物が隠されている場所だと思うかもしれません。そもそも、未来の彼らは私たちの言語や記号を理解するのでしょうか。



吉祥寺バウスシアターで。何億年〜10何億年という遥か古代に形成された硬い岩盤に、地下5キロにおよぶ穴を穿って、高レベル放射性廃棄物の墓場=「オンカロ」を作ろうというプロジェクトが紹介される。


ドキュメンタリーの中で何度も繰り返されるのは、「それだけの手間隙をかけて、しかしそれで本当に確実と言えるのか?」「後世の人々が掘り返す可能性はないのか?」。
目標とする10万年という途方もない期間はもちろん、数万年、数千年、数百年の単位であっても、後世の世代に高レベル放射性廃棄物の危険性をきちんと伝え継ぐことが出来るのか。映画の中では、数ヶ国語で危険性を記した石柱や岩壁を建てたり、言語が解読不能になっている場合を想定して観た人を不安に陥れる絵を描く方法が、真剣に検討されていることが紹介される。絵の案では、ムンク「叫び」をモチーフに不安を訴えかけることまで提案される。
フィンランドの法規制によっても、プロジェクトの概要と危険性を後世に伝えることが義務化されるが、具体的な方法は政府の人間にも示すことができない。
プロジェクトに関わる一人は、あえて語り継がず痕跡を消してワザと忘れ去られるように仕向けることさえ、有力な案の一つだとほのめかす。監督が兼任するナレーションは「忘れることを忘れるな」と、古典童話のように繰り返す。


ピラミッドが何のために作られたのか、わずか数千年で確かな部分が忘れ去られてしまったこと、原発による大電力の恩恵を受けながら、ほんの数十年の間に管理システムの脆弱性と危機的状況に陥った場合の途方もないリスクを真剣に受け止められなくなっていたことを考えると、「オンカロ」が来世紀の後半あたりに掘り返されても全く不思議でないように思える。


映画の中で、原発を明確に否定する言葉は一切でてこない。
せいぜいが、再処理は核爆弾の原料のプルトニウムを生み出すからやめるべき、いずれ石油と同じようにウランも底をつくのだから原子力もあくまで繋ぎのエネルギーに過ぎない、という忠告めいたセリフが紹介されるぐらい。
繰り返し言及が行われるのは、高レベル放射性廃棄物を隔離するため現在のところ最適と思われる「オンカロ」プロジェクトの将来の姿であって、今現在の原発のありようではない。
プロジェクトに関わる神学者(どうして神学者が関わっているのか、詳細な理由は触れられなかった)が、「原発に賛成だろうが反対だろうが、放射性廃棄物の問題は皆で考えなければならない」と指摘する。今そこに明確に存在する、高レベル放射性廃棄物の処理の問題をどうするのかと問いかける。
原発を推進しよう、いや止めるべきだ、廃棄物処理まで含めたコスト計算をやり直そう、原発に代わる代替エネルギーを模索しよう。どの路線も、おおいにオープンな形で、最大限の情報公開をもって、議論されればいい。皆が進んで参加するべきだ。
「で、さ、それはそれとして、とりあえず、今、世界中で最低25万トン以上の高レベル放射性廃棄物があるんだけど、それはどうしようか?」。
オンカロ」に埋葬されるのは、フィンランド原発から排出された分だけという。前世紀のようにソマリアの海に投機して、地震で海岸に漂着するようなことを繰り返すのか。日本を含む、フィンランド以外の国から出た高レベル放射性廃棄物はどこでどうやって処理するのか。





電気事業連合会が2009年につくった、小林綾子がナビゲーターの広報番組の中で、この「オンカロ」プロジェクトが紹介されたことがある。


高レベル放射性廃棄物地層処分 その2


ここで紹介される、オルキルオトの町の人々のコメントはこう。

自治体の担当者のヘイモ・ニクラ
「ここ(=オルキルオト)には原子力発電所があるため、人々の原子力に対する理解が進んでいると思います」
「ストゥックという国の独立機関が常に監視してくれていることも、安心につながっています」
「メリットは働く場所が増えることと、施設からの税金が入ってくることです」
「この事業は景気の影響を受けないので、常に雇用も安定していますし、将来入ってくる税金も見通すことができます」

住民の男性A
「どこかに処分する必要があるので、ここで処分するのがいいと思います」
「リスクがあるかもしれませんが、選ばれた専門家が研究しているはずなので、信頼しています」

住民の女性B
「ここがいいと思います。さまざまな説明会があったり、訪問する機会も与えられていて、情報は十分に得られています」
「安全に作業していると思うので、何も心配していません」
「職場が増えるなどのメリットもありますね」

住民の男性C
「われわれがつくった廃棄物をほかの人たちに処分してもらうのはよくないでしょう」
「テロなどの危険性を考えても、地上で保管しつづけるよりは、地層処分のほうがいいと思います」


これを受けた、日本政府の資源エネルギー庁電力・ガス事業部放射性廃棄物等対策室長の渡邊厚夫のコメントはこう。

「最終処分事業というのは、地域と、この最終処分事業というものが、長きに渡って、共にうまく影響しながら発展しあっていくと、共生という形で進んでいくことが望ましいと、いうふうに考えています」
「この具体的な地域振興というものを実現していくための政策として、国のほうで交付金制度というものがございます。えー、地域の意向を聞きながら、発展のあり方というものを、私共もいっしょに、えー考え、ていきたいと考えております」


高レベル放射性廃棄物をどうやって安全に処理できるのか、どのような危険性があり得るのか。こういったことは二の次で、1に雇用、2に税金。
また、オルキルオトという土地が、その地盤の頑強さゆえに「オンカロ」プロジェクトの場所に選ばれたことは一切触れられない。触れれば、日本にそのような土地に適した場所など存在しないことを印象づけない訳にはいかない。オルキルオトでは、雇用と税金にプラス、地盤の頑強さも決定理由の一つになったが、日本では、交付金の金額のみで場所が決まるということを、渡邊室長は言い切っている。


日本という国で、仮に、原発を安全に稼動させられる目処がついたとして、高レベル放射性廃棄物をどこでどうやって処理するのか。