太陽(監督:アレクサンドル・ソクーロフ)


 新宿ジョイシネマ2で20:00の回。
 20:00の回はレイトショー割引の1,300円で観れるにもかかわらず、すでに1,500円で前売り券を買ってしまっていたので、それを使って。8月の公開第1週目の銀座シネパトスは、スクリーンを2枚回しで上映しても3〜4回後の回でないと座って観れない盛況ぶりで、とっとときびすを返してしまっていた。いつのまにか1ヵ月半も引っ張ってしまい、1日の映画の日が来る前に意地でも観といてやろうということで、本日。客入りは約300席の2割、女性客のほうが多い。





 こんな天皇を観たことがない。観たことがない天皇を、そっくりのイッセー尾形が演じる。だから、観たことがない天皇を観たことがある天皇としてスクリーンに映し出される不思議。



 「あっ、そう」
 「あっ、電気通ったね」
 「不公正な移民法……。起きなさい! 書いてください! 大東亜戦争開始の原因について……」
 「書き続けて! 書き続けて!」
 「じゃあね」
 「私はほかにもいろいろ話します。ドイツ語、フランス語、イタリア語も少し、スペイン語、中国語……」
 「あっ、そう」
 「なあに?」
 「ちがう、カカオだ」
 「あなたの友達がいますよ。今日はここに、ダーウィン



 アメリカ軍兵卒“バイバイ、チャーリー”



 「あっ、そう」
 「あっ、そう」
 「やっ、ねっ、元気そうで。あっ、コートを、ねっ」
 「私はね、成し遂げたよ。これで私たちは自由だよ……」



 人間宣言が及ぼした結果の一つに対して、至近からイッセーに浴びせられる皇后のぎょろりとした目玉。不安と恐怖と戸惑いばかりになった軍属の男たちが行ったことに向けられた、強い怒り。



 こっけいか? こっけいだな。大日本帝国の頭領として処刑されるかもしれない1日の出来事。せまっくるしい退避豪で暗い色の洋服を着て洋食の朝食をフォークで食そうとして受け付けない。マッカーサーナマズの完全性について説こうとするのを、ちょっと急用があるからと遮られ、一人残された部屋で軽くダンス。その1日をこの映画のように過ごしたエンペラーがいたとしたら、こっけいだろう。でも、自分は日本人だから、こっけいだけでは済まないんだけどな。





 しかし、女性の一人客同士ってのは、あんなに席がガラガラでもスクリーンを中央に見据えられる席に詰めて座るもんなのな。前列で3人並んで座ってた一人客は、それぞれが上映前、右端が「蒼穹の昴 ㊤」のハードカバー(図書館で借りたと思しきビニール光沢あり)をむさぼり読み、真ん中がロビーでとってきた「武士の一分」のパンフレットのキムタクに釘付け、左端が左手首の石膏像をいろんな角度から写した写真数枚をためすがえす眺め。少なくとも電車の中なんかではあまり見かけない光景だ。まぁ、こっちはこっちで「噂の真相 闘論外伝」の鈴木邦夫×岡留対談の天皇論を読みながら上映開始を待ってたりしてたわけだけど。



参考:公式サイト