「デトロイト・メタル・シティ ①」(若杉公徳)ジェッツコミックス

某漫画家を電話で一喝。「馬鹿野郎!ボッキしたチンポが垂直に立つかっ!!ヘソに向かって立つんだろっ!!!」マンコをヘソの真下に描く奴は時々いるが、テメーも1本持ってる野郎が…。情けなくなる。

 塩じぃにかかっては「じゃあ、みんなマン毛描かないのはどうなんですか?」という反論が意味をなしそうにない。こういう有無を言わさない怒られ方をされてみたい。



 琴線に触れた理由をつらつら考えてみると、最近、ウォシュレットの「ビデ」は男性が使ってもあまり意味がないことにやっと気がついた、ということがあった。「おしり」は文字そのままの用途を指すとして、なぜ「洗浄」と「ビデ」の2種類があるのか。深く考えてみたことがなかった。密室ゆえの灯台下暗し。ふと、しげしげと観察したトイレの壁に設置されたパネルの「ビデ」ボタンに、女性の絵が使われており、「あぁ!」と理解した。あるのかないのかの「やおい穴」じゃあないが、至極単純明快な話じゃあないか。



 「ビデ」の真相に迫ることができたはずのチャンスは、過去に何度かあった。そのひとつが「アル伝」こと「アルプス伝説」(田丸浩史)だ。連載していたキャプテンが謎の休刊に終わり、腐ってた田丸が印税目当てに袂を分かったはずの徳間からの再刊を受けたのは99年。広辞苑なみに分厚い完全版に収録された書き下ろしで「ビデオに録るというのか?」というまったく無駄なウソ知識を披露していた。あそこで正確な知識を整えておけば。



 キャプテンで育った田丸に世のマンガ読みの注目を集めたのが「超兄貴」だった。人気シューティングゲームのキャラクターを使ったストーリーは好き勝手な方向に歩き出し、ボディビルギャグとでも呼ぶべき独自の世界観を生み出した。書き出すと長くなるので抑えることにするが、第1巻収録の5話の「ASSASSINとゆう単語をASS・ASS・INと覚えてるヤツはたぶん絶対モーホーだ の巻」のタイトルにエッセンスが集約されているように思えなくもない。



 そして田丸にひきつけられていったファンの少なくない数が感化されることになったのが、メタルの伝道師としての田丸。「超兄貴」では「奥様はマノウォー」ネタで初めてその片鱗を見せ、右手首を左手で掴んで頭上に掲げる例の「HAIL!!!」ポーズ(下↓の写真の一番右のポーズ)

Fighting the World

Fighting the World

は、もうファンならお馴染み。ちなみにもれなくファンになった自分のfavoriteは、88年のアルバム「キングス・オブ・メタル」収録の“Hail and Kill ”。どういうメタルかというと、

1981年にアメリカで結成されたマノウォーはレコード会社との契約の際、サインを自分たちの血でしたという素敵なエピソードでそのキャリアをスタートさせている。音楽的には先にあげたまさに絵に描いたようなヘヴィメタルによるヒロイック・ファンタジー。しかし彼らとその他の似て非なる凡百のバンドが異なっているのは、その徹底振りだ。ファンの間で「閣下」と親しみを込めて呼ばれるリーダー、ジョーィ・ディマイオは自身を「サムライの生まれ変わりである」と語る。一見、わが国のデーモン小暮閣下を思い起こす方もいるかも知れない。確かにはっきりいって発言内容は少し感じは似ている。が、デーモンがあくまでもしゃれなのに対し、ジョーィは大真面目だ。それこそインタビュアーが噴き出したりしようものなら、その首を叩き落しかねないぐらいに。彼は云う。「マノウォーのようなバンドになりたかったら、武士道を学べ」と。また彼は云う。「困難で時間がかかる方法こそ、正当な道だ」と。ギネス・ブックに「世界で一番大きな音で演奏するバンド」として認定されている彼らの誓いの言葉は「アンプリファイヤーのボリュームを下げるぐらいなら、死を選ぶ!」そして「偽物のメタルに死を!」。

そういう漢なメタルだ。音楽性にはほとんど触れてないが。



 そんなメタルをフィーチャーしたマンガ、D.M.C.こと「デトロイト・メタル・シティ」1巻が発売された。地獄の使者をモチーフに「FUCK」「レイプ」「マンカス」「下半身さえあればいい」を連呼するD.M.C.を神話的世界観から見下ろすマノウォーはきっと許さないだろうが、メタルの祖・カールスマーダーのギターを受け継ぐことになったクラウザーⅡ世はもう名実共にメタルの盟主になることを運命づけられてしまった。
 このマンガは観衆の突っ込みがクラウザーたちをこれでもかこれでもかと高みに持ち上げていく。メタルの基本だ。あたかもプロレスだ。「縁起がいいー」とか。「出た… クラウザーさんの1秒間に10回レイプ発言」とか。こういう理解のあるファンに包まれることはもうないだろうプロレス業界は不幸なのだろうか。過去を振り返ることはできないが。クラウザーたちに真剣に向き合う観衆の、奴らの様に心打たれないか。打たれないか、そうですか。



 でめいあで指摘されているよう、D.M.C.若杉公徳アッパーズ出身だ。花のない作家がたまに描いてるなぁという印象しかなかった当時からはえらい出世だ。アッパーズから受け取るギャグ養分は、風間やんわりの「たもっさんの時間」、いましろたかしの「盆掘くん」でもう満たされていた。また仮に、D.M.C.の魅力のひとつであるクラウザーⅡ世の暴言がアッパーズで表現されていたとしても、柳沢きみおの「大市民」の俺様暴言には適わなかったのではないかという気もする。


デトロイト・メタル・シティ (1) (JETS COMICS (246))

デトロイト・メタル・シティ (1) (JETS COMICS (246))